初めてタイ王国の土を踏んだ時の、
あの例えようのない混沌としたワクワク感は、
生涯忘れることはないだろう。
幹線道路を埋め尽くす車。
車間を縫うように走るバイク。
カラフルな電飾のトゥクトゥク。
林立する高層ビル群と、屋台、物売りが同居する混沌感。
そしてアイコンタクトすれば 誰もが微笑みかえしてくれる。
そうだ。
ここは「微笑みの国」なのだ。
現役バイヤーでもある私は、 世界各国行く先々で、問屋街に行く。
そこでいつも感じている、違和感がある。
いま、多くの国はモノづくりを忘れてしまったのだ。
世界のどこに行っても、MADE IN CHINAで溢れている。
しかし、ここ、タイは違う。
【MADE IN THAILAND】がいかに多いことか。
日本がかつてそうだったように、 高度成長の混沌とした環境下で若者はチャンスを掴むために懸命に努力し、 空回りしながらも少しずつではあるが、上へ、上へと突き進んでいる。
そして自分たちの生活、自分たちの国は「もっと豊かになる」という希望、成長の実感を持っている。タイで少し生活すると分かることだが、彼ら、彼女らは皆、自分の国に誇りを持っているのだ。たとえGDPが低くても、現在は確かに貧しくても、自分たちは歴史上、植民地支配されたことはないというプライドだ。
だからこそ、MAID IN THAILANDは、優れた品質のものが多い。目の前のお金だけでなく、自分たちの国の商品に対して、誇りを持って作られているのだ。
かつての日本も、そうではなかったか。
バンコク都市部だけ見ていると完全に発展し尽くしたように錯覚してしまうかもしれない。
観光も盛んで、都市化も進んでいる。
こんなところで仕入れたら高いのではないだろうか。利益が出るのだろうか。
仕入れをしたことがなければ、誤解してしまうかもしれない。
しかし、タイの人口は日本のおよそ半分、6,500万人。そのうち月収5万バーツ(約18万円)以上の「上流層」はわずか4%未満の約247万人に過ぎない。月収2万バーツ(約7万円)以上の 「中流層」も、人口の20%、約1046万人しかいないのだ。
見た目ではこれだけ発展しているタイだが、 本当の成長はまだまだこれから。
その成長エンジンは、日本との貿易だ。
日本の市場は、価格競争力のある中国商品と同時に、品質に優れた商品も求めている。
それが、誇りを持って作られているタイの商品ではないだろうか。
そして、日本への輸出を通じて豊かになったタイ人は、日本という国を知り、やがて旅行に訪れるようになる。日本には優れた観光資源があるし、先進性の高い技術もあるからだ。
私は現役バイヤーとして、タイ語で話す妻とともに、
このエキサイティングな仕入れ拠点、バンコクに移住を決めた。
まもなく、ここバンコクで子供も生まれる。
これからの人生、
日本語を学んだタイ人社員たちとともに、貿易、仕入れ代行を通じてこの国と日本人バイヤーの架け橋になり、日本とタイのさらなる発展に寄与したいと思っている。
─── 2018年12月、バンコクパスポート創業にあたって。
佐藤大介
(バンコクパスポート代表)